CRATTO / AUTHOR
Adrian
音楽好き · Cratto の作り手
音楽が好きで、中古レコードの箱を掘っています。Cratto をつくっているのも私です。このサイトの記事の多くは私が書きました。ここでは、レコードに戻ってきたいきさつと、これをつくった理由を書いておきます。
なぜレコードに戻ったのか
13年ほど前、初めてレコードプレーヤーを買いました。機種は正直覚えていません。スピーカー内蔵の安いトランク型で、針も含めて、いいところはひとつもありませんでした。同じころ、初めての中古レコードも買いました。グレン・グールドの《ゴールドベルク変奏曲》。これも安いものでした。
どちらもなぜ買ったのか、はっきりとは思い出せません。いちばんありそうなのは『羊たちの沈黙』です。独房のハンニバルが《ゴールドベルク変奏曲》を聴いている場面があって、それまで聴いたなかでいちばん美しいものだと思ったのを覚えています。振り返れば、あれがアナログの音楽への最初の入り口だったのでしょう。
でも当時は大学を出たばかりで、仕事も安定せず、数えきれないほど引っ越すうちにプレーヤーは壊れてしまいました。最初のレコードたちは、今も実家の棚に置いたままです。
やがてスマートフォンが当たり前になり、誰もが音楽の聴き方をすっかり変えました。ストリーミングがいつもスマホのなかにあって、私はモノとしての音楽をほとんど聴かなくなりました。
2年ほど前、急にストリーミングに飽きてしまいました。理由がわかるまで少し時間がかかりました。デジタルの音楽そのものではなく、すすめられ方が嫌だったのです。すべてがデータで動いているので、画面に出てくるのは、人気のもの、耳に残るもの、バズっているものばかり。本当にいい音楽は、視界からすっかり消えてしまったように見えました。
まるで氷山です。宝物はみんな水の下にあって、見えるのはいつも先端だけ。
ここには妙な矛盾があります。聴ける音楽はかつてないほど多いのに、私が聴く音楽はむしろ減っていました。好きだとわかっている数枚のアルバムばかり繰り返し、ストリーミングのアプリで新しい音楽を掘る気はまったく起きませんでした。
そんなある日、十数年前に買ったレコードのことを思い出して、自分で音楽を掘ってみようと決めました。始める前に、ひとつだけ基本のルールを決めました。レコードとしてプレスされるほどのアルバムなら、音楽として少なくとも悪くはないだろう、というものです。いつも当てはまるわけではないのはわかっています。ひどい音楽もたくさんプレスされてきたし、いまの新譜のアナログ盤には、ほとんどグッズのようなものも多い。このルールがいちばん効くのは、古いレコードと中古の箱です。それでも、例外を含めても、私にとってはアルゴリズムよりずっといい出発点でした。
従来のレコード業界がモノとして音楽を届けてきたやり方は、それ自体が自然なフィルターになっています。フィジカルのリリースはデジタルより固定費がずっと高い。とくに今は、AI がトークン代くらいで一曲つくれてしまいます。一枚のレコードがプレスされるまでには、たいてい、業界で何年も働き、実際にお金を賭けなければならない人たちの目を通る必要がありました。だからといって、すべてのレコードが名盤なわけではありません。でも少なくとも、世に出たものはいちばん基本のところで音楽ではあった。SNS のための BGM ではなく。
それ以来コレクションは増え続け、聴くジャンルもずいぶん広がりました。なぜだろうと考えて気づいたのは、お金を払うことと、レコードが生まれる前にかかるふるいとが合わさって、一枚一枚の買い物が慎重になるということです。画面のボタンを押すほど簡単ではありません。
棚はこれからも埋まっていくはずで、並ぶのは一枚残らず、自分でよく選んだレコードになるでしょう。集めれば集めるほど、出た当時は売れなかった、なかには失敗作とされたアルバムが、音楽としては素晴らしいことに気づきます。
誤解のないように言うと、デジタルの音楽に反対しているわけではありません。今もストリーミングは使っています。ただ、レコメンドのアルゴリズムと、出されたものを受け身で受け取ることに疲れたのです。自分で音楽を掘りに行くほうがいい。聴くものに本当の幅が戻ってきたのは、そのおかげだと思っています。
なぜ Cratto をつくったのか
だから、このサイトと Cratto をつくりました。レコメンドのアルゴリズムが差し出すものを受け身で受け取るのではなく、聴くものを自分で選び、自分で掘り、自分の好みをたどっていく。そんな、もっと能動的な音楽の聴き方を広めたいと思っています。
ジャンルマップも、ここの記事も、アプリも、同じひとつの考えから生まれています。あなたも自分で音楽を選びたいなら、その手助けになればうれしいです。
